住民主体の健康増進活動の形成
~長野県八千穂村における実践から~


中山大輔、三浦利子、杉田淳平、菊池みずほ

小林栄子、西垣良夫、井出久治(佐久総合病院健康管理部)
杉山章子(日本福祉大学 社会福祉学部)

エンパワーメント ヘルスプロモーション 組織づくり

<目的>

長野県八千穂村は全国でも先駆的な試みとして1959年に「全村健康管理」を開始した。

この健康管理事業を基盤として生まれた、住民による活動について、その形成と発展の過程を明らかにし住民主体の活動の進展を可能にする要件を検証したので報告する。

 

<方法>

(1)2003年8月~2004年9月にかけて複数の住民・行政職員・専門職員から、面接による聞き取り調査を実施した。

聞き取った内容は、録音後、遂語録としておこした。

倫理的配慮として、聞き取り調査対象者へ研究目的・録音および検討方法について説明し了承を得た。

(2)八千穂村における個人・諸団体の実践記録等の一次史(資)料を収集・整理し、活動過程を時系列にまとめて年表化した。

さらに個々の事実関係の連関を示すアロー図を作成した。

(3)聞き取りと史(資)料の検討から得られた内容を、行政・専門職が住民を支援するために用いたエンパワーメントの方法に着目して分析し、住民主体の活動の進展を可能にする要件を検証した。

 

<結果>

(1)1957年に、行政・専門職の働きかけで誕生した「栄養グループ」は、関係者の支援を受けながら実践を重ね、1970年代後半には、住民の発案による組織を立ち上げ、栄養や食生活にとどまらない広範な問題に取り組むようになった。

(2)住民は、生活に密着した活動の中から地域に潜在していた保健・福祉のニーズを掘り起こし、問題解決のための方策を試みるとともに行政に対応を求め、新たな社会資源の創出を促した

 

<考察>

住民主体の活動の進展を可能にする要件として、

(1)行政・専門職の住民に対するエンパワーメントが挙げられる。

モノ・カネ・場所といったハード面の環境整備とともに、状況に応じて適切な助言や働きかけを行うソフト面からの支援が、関係者の連携のもとで有機的に組み合わされて実践された。

行政・専門職の多くが村の住民であり、地域の一員として人々と協働したことが、活動の的確性や継続性を生み出した面も見逃せない。

(2)住民の組織化も活動の進展に大きな役割を果たした。

行政・専門職が、婦人会や公民館活動で生まれたグループなどの既存の地域集団を活用しながら、人を育てる組織づくりを行ったことによって、自主的な組織形成を目指す住民の力が引き出された

(3)重要な要件として忘れてはならないのが、「全村健康管理」事業で培われた「基盤」である。

健康管理事業の中で形成されてきた関係機関・関係者相互のネットワークの存在が、エンパワーメントを実効あるものにし、事業を通じて住民が獲得した「健康意識」が、行政を動かすまでに活動が発展する原動力となったのである。 

地域におけるヘルスプロモーションは、住民による主体的活動なしには成立しない

八千穂村の実践から、行政・専門職による適時・適切なエンパワーメント活動を有効に機能させる組織、そして活動の舞台となる「基盤」の整備といった住民主体の活動実現に欠かせない諸要件を検証することができた。

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