健康管理運動の展開と展望―八千穂村全村健康管理の五十年―
Ⅰ.戦前の健康管理の取り組み 西垣良夫
・戦前の農村の状況
・石原修、暉峻義等など・・・社会衛生学的研究
・林俊一「農村医学序説」、高橋實「農村衛生の実証的研究」ほか
・組合病院(後の厚生連病院)の始まり
・農協(産業組合)の保健婦の設置とその活動
Ⅱ.農村の暮らしと健康 前島文夫
――全村健康管理が始まるまで――
Ⅱ-1 戦後の健康・生活状況
Ⅱ-1-1 農村の生活状況
Ⅱ-1-2 村の医療
Ⅱ-1-3 農村の疾病
・結核
・寄生虫がまん延
・赤痢の集団発生と水道づくり
・脳卒中・高血圧
・国保統計(入院・外来)
・映画「農村の病気」に見る農家生活
Ⅱ-2 住民のグループ活動
Ⅱ-2-1 青年団・婦人会
Ⅱ-2-2 栄養グループの始まり
Ⅱ-2-3 環境衛生指導員の設置
Ⅱ-2-4 出張診療活動と住民の関わり
Ⅲ.全村健康管理の始まり 中田伸博・飯嶋郁夫
Ⅲ-1 全村健康管理の立ち上げまで 倉根大和
Ⅲ-2 全村健康管理のしくみと内容
・健康管理の2つの柱 小林由佳
・健康手帳と健康台帳(実物のコピーも) 小林洋平
Ⅲ―3 健康管理の組織と運営
・組織と運営体制 金井未来
・健診内容と料金 金井未来
・村と病院で健診班を編成 金井未来
・結果報告会に力を入れて 金井未来・小林由佳
・衛生指導員の新たな任務 市川 奨
Ⅳ.全村健康管理の足跡 吉川千代子・横山孝子
Ⅳ-1 健康課題とその対策
Ⅳ-1-1 明らかになった村の健康実態 佐口真子
Ⅳ-1-2 「冷え」とストーブ実験 一本鎗七恵
Ⅳ-1-3 農夫症と農民体操 内田直人
Ⅳ-1-4 寄生虫対策 井出潤一
Ⅳ-1-5 母子保健の取りくみ 水沢美芳
Ⅳ-1-6 主婦のうすい血問題と食生活 吉田 翼
Ⅳ-1-7 兼業化と農家女性 高見沢葉子
Ⅳ-1-8 農薬問題、その他農作業関連疾患 浅沼信治
Ⅳ-2 全村健康管理の効果と評価Ⅰ(中間評価) 松島松翠
・健康管理10年の成績と評価
・健康知識と健康意識の推移
・健康管理の実施と国保医療費(とくに老人医療費)
Ⅴ.全村健康管理の展開 吉川千代子・征矢野文恵
Ⅴ-1 健診内容の充実とともに
Ⅴ-1-1 集団スクリーニングの開始 吉川千代子
Ⅴ-1-2 事後指導の取り組み 小山千恵子
Ⅴ-1-3 がん死亡の増加 木村道子
Ⅴ-1-4 村民ドックの開始 井出まさ子
Ⅴ-1-5 脊椎検診 関 郁男
Ⅴ-1-6 歯科検診 山崎しげみ
Ⅴ-1-7 小児(学童)の健康管理 小山千恵子・高橋知子
Ⅴ-1-8 ヘルス結果30年の変化 横山孝子
Ⅴ-2 健康と福祉の一体化に向けて
Ⅴ-2-1 保健予防事業と高齢者福祉対策の変遷 征矢野文恵
Ⅴ-2-2 地域リハビリ(機能訓練事業、お達者事業、地域リハ訪問) 市川 彰
Ⅴ-2-3 お年寄りのための福祉施策活動 渡辺剛史、井出成一、木次志真子
Ⅴ-2-4 障害者福祉活動(脳卒中、ストマ、作業所) 中澤智宏
Ⅴ-2-5 訪問看護ステーションやちほのあゆみ 井出玲子
Ⅴ-2-6 宅老所「やちほの家」
・宅老所「やちほの家」ができるまで 征矢野文恵
・宅老所「やちほの家」の活動の成果 今井 靖
Ⅴ-3 健康管理に関する論議
Ⅴ-3-1 地下水問題 西垣良夫
Ⅴ-3-2 衛生指導員廃止の動き 飯嶋郁夫
Ⅴ-3-3 村民ドック実施問題 飯嶋郁夫・土屋樹里
Ⅴ-3-4 がん検診不要論 松島松翠
Ⅴ-3-5 特定検診 前島文夫
Ⅵ.健康な地域づくりのための運動 高瀬美子・小林栄子
Ⅵ-1 地域活動の実施と評価
Ⅵ-1-1 衛生指導員会の取り組み 飯嶋郁夫・市川 奨
Ⅵ-1-2 栄養グループ 杉田利子・中山大輔
Ⅵ-1-3 健康大会・健康まつり・健康と福祉のつどい 前島文夫
Ⅵ-1-4 春の健康管理合同会議(タラの芽会) 飯嶋郁夫
Ⅵ-1-5 住民による演劇活動(劇の一覧を紹介) 飯嶋郁夫・油井幸子
Ⅵ-1-6 婦人の健康づくり推進員の活動 高瀬美子
Ⅵ-1-7 住民の保健・福祉リーダーづくり 飯嶋郁夫・水沢美芳
Ⅵ-1-8 地区ブロック活動 高瀬美子
Ⅵ-1-9 健康管理合同会議から生まれた民主的な村づくり 小林栄子
Ⅵ-1-10 JA南佐久における健康と福祉の取り組み 池田拓也
Ⅵ-2 全村健康管理の効果と評価Ⅱ 松島松翠
・全村健康管理に対する村民の評価
・全村健康管理に対する外部の評価
・全村健康管理とソーシャルキャピタル
Ⅶ.今後の課題と展望
Ⅶ-1 健康な地域づくりに向けて 地域ぐるみの健康管理活動--今後の課題-- 杉山章子 Ⅶ-2 今後の課題と展望に対する提言 ・「地域をつくる医療」を今に生かす道 吉川 徹 ・「活動」と「内面」の再構築を 遠藤隆也【⇒このページの下の方に提出した原稿を示します。】 ・八千穂村への提言 松下 拡
Ⅷ.研究・論文・ブックリスト 高橋優文
Ⅸ.歴史年表 油井公昭
Ⅹ、別冊 「衛生指導員ものがたり」 松島松翠、高杉進、油井公昭、高橋優文
1.健康管理の原点八千穂村(第10回健康まつりの講演から) 若月俊一
2.衛生指導員ものがたり 松島松翠・横山孝子・飯嶋郁夫
編集委員 西垣良夫、前島文夫、油井博一、市川和泉、高杉進、竹内俊文、中山大輔、
中島洋輔、遠藤徹、征矢野文恵、中田伸博、油井公昭、高橋優文、吉川千代子、
高瀬美子、吉田翼、
編集顧問 松島松翠、横山孝子、小林栄子、飯嶋郁夫
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- Ⅶ-2 今後の課題と展望に対する「提言集」 遠藤隆也(M-SAKUネットワークス)
「活動」と「内面」の再構築を
1.はじめに: 八千穂の皆さんと佐久総合病院のたまもの:
この地では、畑や小海線の電車の中でも、どこに行っても、何気ない会話の中に、佐久総合病院のことを耳にします。そして、病院祭では、その諸活動の幅広さ・深さに驚かされます。佐久総合病院の「総合」の意味は、当然としての「総合病院」であると共に、八千穂・南佐久地域の人々の諸活動、加えて心の中の「底流を流れる総合」であるような感じを受けます。皆さんが創られた環境、皆さんのソーシャルネットワークスの中で生活できる喜びを感じています。
2.『村ぐるみ健康管理二十五年』における提言と現状:
『村ぐるみ健康管理二十五年』において、松川町教育委員会主事の松下拡さんが、「課題とその解決への方途」の中で、「病院と行政と住民との関係は、本来どのようにあるべきであるか。」について提言をされています。これらについては、「健康管理合同会議」、「健診結果に対する結果報告会」、「福祉と健康のつどい、住民による演劇活動」「佐久地域保健福祉大学」などなど、この地では、相当のところまで、実現されているように感じています。
3.八千穂・佐久総合病院の諸活動からの学びと提言集:
2005年の市町村合併、2008年からの特定健康診査・特定保健指導(メタボ健診)などによって、地域活動や健康管理活動をとりまく環境・状況は、大きく変わってきているように感じます。自分たちの地域を良くしていきたいと思うとき、今、何が必要なのか? 私たちにできることは何なのか? どうもそのキーは、八千穂・佐久総合病院のこれまでの活動全体の中にあるように思われてなりません。活動全体から私たちが学び、受けついで、願わくば未来に、願わくば他の地域での活動にも役立つためには何をどのように進めていけばいいのか。あるローカルな場所、時代から発信された活動実践の知識を、他のローカルな場所、時代に伝播(インターローカリティ化)できるようにし、今後の活動実践の参考になるように、主体、対象・結果、道具(ツール)、集合体、分業、ルール・規範の構造からなる活動理論に基づく表記法を使って表現すると共に、今の思いをイメージ的に「図 健康管理運動の展開と展望: 八千穂村からの学びと新たな拡張的・発達サイクルに向けて」に描いてみました。
以下に、新たな拡張的・発達サイクルに向けての、いくつかの提言を、八千穂村・南佐久のネットワーク活動という言葉(MSAKU NET の英文字)になぞらえて記述してみます。
M(Multidisciplinary、Mutual、Methodology):
これまでの諸活動を持続・深化させ、普遍的問題である健康問題を包み込みながら今後の地域づくりに展開していくためには、医療、疫学、保健予防、健康管理などの専門領域から、人間学、社会学、情報学、ネットワーク・情報通信技術など、多くの学問領域にわたる、すなわち、マルチディシプリナリー(Multidisciplinary)な取組みを、利害関係者を巻き込みながら話し合い、相互にインタラクション(Mutual interaction)しながら進めていく方法論(Methodology)を開発しながら進めていくことも必要だと思われます。
S(Sociocultural、Sustainable、Strategic):
これまで社会・文化的(歴史的)(Sociocultural)に創発・共創・構築・醸成されてきたソーシャル・キャピタル(Social capital)を大事にし持続させていく(Sustainable)方法論を明らかにし、その基本となる持続させようとしてきた心・本能のメカニズムについての八千穂村の方々からの経時的学びを明らかにし、その学びを今後の活動サイクルに戦略的(Strategic)に活かしマネジメントしていくことも大切だと思われます。
A(Archives、Accessibility、Activities):
農村医療の映像記録保存会がこれまでの映像記録のディジタル化を進められています。本「五十年史」の記録とあわせたアーカイブ(Archives)化活動を広く多くの方々が容易にアクセスできるように情報へのアクセシビリティ(Accessibility)を高めて、単にアーカイブにとどめることなく広く普及させ、これからの諸活動(Activities)に活かして頂くための方策を企画・実践していくことも大切だと思います。
K(Knowledge)
「農民と共に」新たな「農村医学」の知識(knowledge)を生み出したこの地において、八千穂村の活動以来持続している健康管理データ・現場参加観察から、現在の新たな地域・農業の問題を提起し、それを解決していく地域・農村健康医学、家族(遺伝)医学、母乳育児医学・心療医学、老年医学、性差医学、個の医学などの実践知を創出していくことが期待されます。そして、それらの知識を住民の皆さんと共創・共有化していき、佐久病院は「やっぱり我々と共にあった」、よりそい続けていたと感じられるようにしていくことが望まれます。
U(Ubiquitous、Universal)
この地でのこれまでの経験を、海外の国々でも、いつでも、どこでも利用できるユビキタス(Ubiquitous)な存在にしていくことも期待されます。そのためには、文化・言語・国籍の違い、老若男女といった差異、障害・能力の如何を問わずに、これまでの経験を追体験・利用できるような情報環境や普及活動として、ユニバーサルデザイン(Universal design)していく必要があると思われます。
N(Narrative、Networks)
1959年に始まった全村健康管理運動に参画された方々は、自分たちが力をつくすことでよくしていきたいとの思いが強かったと伺っています。その思いは、「農民と共に」演劇を共創し、みんなの心の伝えていく方法として形式化された知識ではなく、お互いにその経験について語り(Narrative)、分かち合い、参画する喜びや自己の深化を感じ味わうといったことが重要であったと思われます。医療としてのナラティブ・ベイスト・メディスン (NBM:Narrative-based Medicine 物語に基づいた医療)のように、活動自体を理解・共感を呼ぶためには、物語に基づく活動(Narrative-based Activity)が大切であると思われます。
そして今、地域の総合的な健康管理活動を考えた場合には、望まれる未来の歴史の断片としての物語(Narrative)を、地域の他の病院、診療所、母乳育児団体などと共有・共感していくような複合的ネットワーク化(Networks)を進めていくことが大切だと思われます。
E(Education、Entertainment)
農村医学夏季大学講座、佐久地域保健福祉大学などでのような学びと教育(Education)の場が、ますます必要になってくると思われます。佐久地域保健福祉大学の卒業生は、「種を蒔く人になろう」との活動をされています。これらの活動には若い世代の参加を増やしていくことが大切になってきています。これまでの演劇による方法に加えて、みんなが参加し共に創り楽しめる(Entertainment)方法を考えていく必要があるようにも思います。
T(Technologies、Tools)
現在、世界の医療界では、従来とは異なる形の情報化が進んでいます。医療業務の効率化に加えて「医療情報の共有化や消費者主導化」が進んでいます。このような情報化を実現する仕組みをEHR(electronic health record)、またはPHR(personal health record)と呼ばれています。最近では、ネット企業が「健康情報の個人向け管理サービス」に相次いで参入して話題になり、これらサービスの利用者は、自分の健康に関する情報を一元管理できます。
医療に関する技術(Technologies)は当然のことであるが、活動が新たな拡張サイクルに入っていくためには、ライフログ技術、データマイニング技術、コミュニティ支援技術などの情報通信技術(ICT)を用いた各種の最新のツール類(Tools)を利活用していくことが必須になると思います。若い世代を活動に参画させていくためにも必要だと思います。
4.むすび:
この50年史の編纂の年に、東日本大震災が起こり、改めて地域コミュニティを持続させていくことの大切さが再認識されてきています。「差異」とは「持続」であると言われています。「八千穂村全村健康管理活動」は、この「持続」という観点からも、コミュニティ活動として驚異的なものであると感心します。平成21年の「福祉と健康のつどい」での劇の題名は「絆(きずな)」でした。観客の私も思わず引き込まれ涙し、そして意識がまた少し深まった体験を、地域のたくさんの方々と共有し感動しました。
一方で、最近、近所の方から、「病院は、各科がショッピングプラザのテナントになってきているように感じるときがある。『総合』病院というからには、テナントにならないでひとつの家(家族)のようになって欲しい」「最近、検診率がおちてきているのではないか?」などとの声を聞きました。今、「形態としての再構築」に加えて、「活動(方法)の再構築」、そして「内面(深化)の再構築」が期待されていると思われます。それは、私ども、住民に投げかけられた問いでもあります。
佐久穂町の羽黒下駅に降りると、「水と緑のうるおい、人の営みが奏でる未来のふるさと」という石碑があります。これから、「形態としての再構築」が進み、ツール・道具・活動などは新たになったとしても、「人間的・社会的」には、人々と共に歩む「地べたに根ざした、何か少し泥臭い、なつかしい未来」、そんな地になって欲しいと思います。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
【参考情報】
本原稿の基になったのは、2008年10月27日に佐久総合病院でおこなわれた「佐久総合病院研究会」の場での講演「佐久総合病院のたまもの」です。
(講演内容は http://www.msakunet.info/presentation081027.html をご覧頂ければ幸いです。)
【以下、メディカル佐久情報ネット http://www.msakunet.info からの引用です。】
--(2008.10.27)---------------------------------- 佐久穂町在住のHI 総合デザイナーの遠藤隆也さんから 「佐久総合病院のたまもの:住民・患者の立場から、佐久総合病院の諸活動・体験流に感謝しつつ」(じゅく通信における報告)(講演資料PDF) というお話がありました。 お話の中のキーワードとして、
などについて話されました。 【HIとはHuman activity & Information ecology の略だそうです。】 【当日の講演内容は、http://www.msakunet.info/presentation081027.html を、以下に再掲いたします。】
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
佐久総合病院のたまもの
住民・患者の立場から、佐久総合病院の諸活動・体験流に感謝しつつ (講演資料PDF)
佐久穂町在住 遠藤隆也 (HI総合デザイナー) (目次) 1.はじめに:電車や畑の中でのお話し、そして病院祭で 2.住民・患者の思い:何かお役に立てることは? 3.小さな気づき:総合的な諸活動・体験流の深さ 4.参考と思われる動向の例:体験、経験経済、Web2.0との対比 5.諸活動・体験流の再構築:活動/体験のデザインとマネジメントの重要性 6.佐久総合病院のたまもの:「分けることから始まった近代化」の脱構築 7.むすび:I ターンしてきて良かったー!この環境に感謝 ---------------------------------------------------------------------------------------------------- 【付録】地域における新たな普及啓発方法の開発に関する研究
1.はじめに: 電車や畑の中でのお話し、そして病院祭で この地に来て、およそ4年半になります。この地のどこに行っても、何気ない会話の中に、佐久総合病院のことを耳にします。そして、病院際では、その諸活動の幅広さ・深さに驚かされます。そして、佐久総合病院の「総合」の意味は、当然としての「総合病院」であると共に、(南)佐久地域の人々の諸活動の「底流を流れる総合」であるような感じを受けるようになってまいりました。
2.住民・患者の思い: 何かお役に立てることは? 若月さん、松島さん、清水さんをはじめ、皆さんのお陰で、こんなにも豊かな環境で生活できていることへの一住民・患者としての感謝の気持ちをどう表せばいいのか、という気持ちでいたときに、北澤さんが、佐久穂町の「茂来館」で、「医療崩壊はここまで来ている - 佐久地域も例外ではない -」というお話を熱く語られました。お話の最後に、「何とか現状の医療崩壊を皆で食い止め、安心して暮せる地域であり続けられるように皆様のご協力をお願い致します。」と訴えかけられました。そこで、私たち住民・患者の立場から、「みんなで明日の地域医療を創る」ために、何か少しでもお役に立てることはないか、と考えて、「メディカル佐久情報ネット」 http://www.msakunet.info/ というものを、まず立ち上げてみました。そして、「たらの芽会」で、北澤さんから研究会のことを教えて頂き、この佐久総合病院の研究会に参加しました。
研究会では、5月:「日本の医療の構造的問題」、6月:「住民主体の健康管理活動 ~八千穂を中心に~」、7月:「メディコポリス構想の実現に向けて --- 南佐久南部地域での実践 ---」、8月:「佐久地域の現状課題 --- 産業・経済を中心に ---」、9月:「メディコポリス(医療・福祉都市)構想は、ジリ貧の製造業を補完できるか?」について学びました。この中で、地域における1次産業、2次産業、3次産業、(6次産業)などの議論のように、経済的価値に換算して、根拠をもとめていくことの必要性の議論があることも知りました。そして、研究会の中で、これまでの佐久総合病院の諸活動とその体験の深さに、あらためて深い感銘を受けました。
3.小さな気づき: 総合的な諸活動・体験流の深さ: 以前に、ハイエクに学んだことで最も印象に残っていることは、「人は教えられたように、ものごとを見る、ものごとが在る、と思っている」という話を聞いたことがあります。そこで、研究会で議論されていた、1次産業、2次産業、3次産業、(6次産業)などで捉えようとする見方、医療従事者数、売上規模、経済効果などで捉ええようとする見方について、少し再考してみることにしました。これまで、およそ30年、「小さな気づき」を大切に、という活動;「自分のまわりの現実、直接経験、事象そのものを観察してみよう、自分自身で考えてみよう、また、オリジンにふれてみよう、そして、自分自身を振り返ってみよう」という活動を、主として企業活動・学会活動・ビジネスの世界を中心に、おこなってまいりました。 (佐久総合病院の諸活動・体験流に醸し出された地、地域医療・農村医学のオリジンンの地である)南佐久にあこがれて、I ターン(アイ・ターン)をして、この地に来て、およそ4年半。この地でも、この「小さな気づき」の活動を少しずつ試みてみることにしました。そして、住民の方々、佐久総合病院の方々の諸活動・体験流の深さ・豊かさをあらためて実感させて頂き、I ターンしてきて、本当に良かったなー、と。そして、この佐久総合病院の総合的な諸活動・体験流にこそ価値があると確信するようになってきました。でも、それを、やはり、経済効果などで説明しないと納得されない方々もおられるとすると、どうすればいいのかなー?
4.参考と思われる動向の例: 体験、経験経済、Web2.0との対比: そこで、別の世界の動向になぞらえて、佐久総合病院の諸活動・体験流を再解釈してみようと思いました。 コモディティ化してきている(みんなが同じようなものを作れ、同じようなサービスができるようになってきている)産業・サービス業の最近のイノベーション活動・ビジネス動向の中に、以下のような話題があります。ひとつのキーワードは「製品・機能・性能」から「サービス(QoS:Quality of Service)」へ、そして「体験・経験(QoE:Quality of Experience)」、「経験経済」へという動き、もうひとつのキーワードは、インターネットの世界での「Web2.0」という言葉であらわされる最近の動向です。企業の諸活動・体験流を総合的にデザインし、Web2.0の動きを実践することにより、1兆円規模の企業が生まれています。
これらの経験経済やWeb2.0の動向の図の中に、佐久総合病院の諸活動・体験流を対比させて図式で説明してみました。対比させてみてみると、若月さん、松島さん、清水さんをはじめ、佐久総合病院の皆さんが、これまでおこなわれてきた諸活動・体験流は、まさに、この時代の流れを、50年も前から、「農民とともに」、先取りされていたことが見えてきました。しかも、上述の(企業のイノベーション活動・経済活動にみられる)動きの中には、地域、住民、健康、文化...などの総合的な経験経済の視点は、まだまだ陽には現れてきていません。そして、佐久総合病院の諸活動・体験流は、「生きる」、「生き生きとくらす」ということが底流を流れています。このような考えも、まだ上述の動きの中には少ないと思われます。どうしても、経済的視点での説明が必要な場合には、今回の「佐久総合病院の再構築」に合わせて、例えば、「現在言われている経験経済」を超えた、「地域社会・地域住民のための新しい経験経済の創出」活動である、ということもできるような気がしてまいりました。現在進めておられる「再構築」活動は、およそ半世紀前に進められてきた諸活動・体験流の、21世紀のルネッサンスのような感じもしてきております。
5.諸活動・体験流の再構築: 活動/体験のデザインとマネジメントの重要性: 上述のように捉えてみた上で、すでに進めておられる「再構築」活動の方法論自体にも、何かお役に立てることはないか、少し考えてみました。「あの人物だったから、あの場所だったから、あの時代だったから、できたのだ」ということではなく、ちょっとだけ抽象化した知識、ちょっとだけ一般的な概念を使って、直接の当事者でない人にも理解できるようにし、ちょっとだけ違った視点・方法論を使って、次代の活動の深化に生かしていく方法はないものか? あるローカルな場所、時代から発信された活動実践の知識を、他のローカルな場所、時代に伝播(インターローカリティ化)できるようにし、今後の活動実践の参考になるように、主体、対象・結果、道具(ツール)、集合体、分業、ルール・規範の構造からなる活動理論に基づく表記法を使って表現してみました。そうしてみると、今回の「再構築」も、実はこのインターローカリティ的視点が大切な気がしてきました。すなわち、今回の「再構築」では、場所も拡張され、時代も変わっています。今後は、例えば、外的コンテクスト(Social Context)と内的コンテクストを考慮しながら、「再構築」における諸活動・体験流のダイナミックな構造を立体的に再表現し、その諸活動・体験流を再デザインし、その持続的な総合的マネジメントのメソドロジー(方法論)を熟考・共有・実行していくことが肝要であると思われました。
6.佐久総合病院のたまもの:「分けることから始まった近代化」の脱構築: 行政と住民、行政と医療、病院と地域、医者と患者、医者と農民、医師と助産師、先生と生徒、理系と文系、学と現場、産と消、….心と身体、……などなど「分けることから始まった近代化」が様々な問題を生み出しているようにも見受けられます。ハイエクは、「適切な社会秩序という問題はこんにち、経済学、法律学、政治学、社会学、および倫理学といった様々な角度から研究されているが、この問題は全体として捉えた場合にのみ、うまくアプローチできる問題である」、また、「ハイエクにとって、主要問題は、どんな人もその一部しか把握できないある複雑な環境の中で、どう行動するかを知ることである」と言われています。 私は、佐久総合病院の諸活動・体験流から、心と身体の安全・安心に加えて、表層的な近代化が忘れていた、全体として捉えた地域における総合的な生き生きとした生き方を、たまものとして頂きました。
7.むすび: I ターンしてきて良かったー! この環境に感謝 私は今、この地に、この環境に、Iターンしてきて、本当に良かったー! と実感しています。それは、安全・安心の気持ちだけではなく、何か、人として忘れていた何かを感じさせてくれるからです。その何かが、「佐久総合病院のたまもの」のような気がします。 建物の再構築、内面の再構築、経験価値の再構築、...そして私たち住民・患者の内面の再構築、...が求められているような気がします。前回の研究会までの皆さんのご意見の中に、人間ドック、体験ツアー、自然環境を生かす、森林浴、食の安全・安心、地産地消、食育、健康、福祉、地域活動、文化活動、そしてこれらのネットワーク化….などなどのアイディアがたくさん出されていました。これらのバリューチェーン(価値の連鎖)の再構築のキーが佐久総合病院の諸活動、体験流からの学びの中に内在していると思われます。そして、これまでの検討に加えて、「再構築」の諸活動・体験流のデザインとその総合的なマネジメントのあたらしい道具(ツール)として、最近のICT(情報コミュニケーション技術)の利活用を考えていくことも必要だと感じました。(詳細は、http://www.msakunet.info/kousei.html をご参照下さい。) 松島さんが、以前に、佐久穂町の健康活動に関連して言われていた、「旧佐久町が旧八千穂村のようになるには30年はかかるよ」との一言は意味が深いと思われました。差異とは、「持続」であるとも言われています。今までの諸活動・体験流が今の若手の地域医療の方々にも持続させていることのすばらしさには感心します。「21世紀を生きる」、それは、この地の再構築に接しながら、住民・患者として少しでもお役に立てることだと思います。ひとりの住民・患者として、今後、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。 《ご意見・発言》
報告の後に、以下のような多くの貴重なご意見を頂きました。ありがとうございました。
(Q1)旧佐久町が旧八千穂村のようになるには30年はかかるよ、というのはどういうことか?
(A1)昨日、佐久穂町で恒例の「福祉と健康のつどい」が開かれ、たくさんの方があつまられました。元々八千穂での活動が合併後も引き継がれたもので、まだ八千穂の方の企画・参加が主であるように見受けられました。例えば、その中で町民(以前は村民)みんなが楽しみにされている演劇(今年の演題は)「きずな」が披露されました。健康づくり員や健康推進員、それに佐久総合病院の保健師さんなど33名が、夜遅くまで20回にわたる練習を重ねて演じられたもので、感動を与える素晴らしいものでした。住民の方々全員の意識が変わって、みんなが企画・参加してくる活動になってくるまでには相当の時間がかかるような気がしました。
(Q2)東京でも、各地区で住民参加の同様の取り組みが当たり前のようにやられているが?
(A2)同様なことは各地で行われているとおもわれますが、濃さが少し違う感じがしました。例えば、1000万人の都会で例えると、およそ100万人の方が健康福祉活動のつどいに企画・参加したことに相当します。
(Q3)東京では、軽い病気は近くの病院、重い病気は、大きな基幹医療病院にいくことが当たり前のようになっているのに、どうして佐久病院が基幹医療センターをつくるのに反対するのか、わからない?
(A3)そのとおり、基幹医療センターも必要だと思います。
(Q4)若月さんの「大衆論」を読まれたか? 大衆に対して、打算的であるとかと、厳しいが?
(A4)読んでいません。ただ、Web2.0の「集合知」のお話のように、私は、最近の衆、現場の普通の人の知は、表層的に見える現在の底流を流れるものを生み出していると感じています。
(Q5)この病院に新しくきた。病院の収入は医療費。QoEをどうやって生かしていくか。先端医療と分かれていかざるをえない。諏訪日赤は赤字を3年で黒字病院に転換。この病院も変わっていかなければならない。
(A5)そのとおりだと思います。そこで図に示したように、より科学的マインドをもった先端医療センターと、科学的・社会文化的・歴史的・エコロジカルシステムである総合的なマインドをもった地域医療センターの諸活動・体験流のデザインと総合的なマネジメントの方法論を開拓していくことが肝要だと思いました。
(Q6)八千穂も完全ではなく、問題もある。ソーシャルキャピタルは「共働力」とも訳され、それには垂直型と水平型がある。普通は、上下の垂直型であるが、八千穂では、住民、役場、医者が一緒になって、水平型にできた。健康のつどいの劇もみんなが協力してやっており、町長が役者になったこともある。旧佐久町ではまだできていないが、段々とやっている。佐久市ではまだ難しい。健康を守ることを軸に、まず内部結束ができていくとよい。都会では難しい。あわててやってもできない。30年はかかるのではないか。「うどん会事件」というのは、検診車で地域にいって健診するが、勤めている人が来るのは遅くなる。地域の人がうどんを作ってくれて、それを食べながら反省会をしていたが、遅くなって困るのでやめたいと言ったら若月先生が怒った。
(Q7)全国厚生連の機関誌をつくっていた。医療生協の話もある。要は「参加」がキー。集合した力。最近、その参加が薄まってきている。八千穂のすごさは、参加があることである。
(Q8)八千穂の活動が変わってきたきっかけは、衛生指導員が検診率にこだわり、狭い視野になっていたときに、松川町での集まりにいってきて、検診率だけではなく、何でも自分たちの関心のあることについて(例えば、お酒をうまく飲むにはなども)自由に話し合う学習会をもつことで変わってきた。それと、女性の推進委員ができたことで変わった。それまでは、男性はこれこれ、女性はこれこれ、などと分かれていた。学習会をしながら、いい関係ができてきた。そして、自分達のためだけではなく、地域のためと、ひとつのことを共有していく過程、平等、民主的活動が生まれていった。佐久町と八千穂村は合併してよかった。佐久町にもいい人がいる。5年位かかるかも知れないが。これまでなぜうまくいっていたか。それは、予算があること、サポートする関係者がおり連絡会(健康指導員、佐久病院、千曲病院、学校、役場などなど)があり、情報交換がサポートされていたからである。これからが心配である。これまでは、検診というツールがあった。これからは、データとして検診以外のことも考えていかないとならない。
(A8)そこらをサポートするための情報コミュニケーション技術を、利活用いくことも必要だと思います。
(Q9)最近の状況として、特定健診の事業主体は保険者となっており、地域の枠組みがくずれてきている。佐久市の目標は51%であるが、現状では20%を切っている。これは全国的な傾向である。厚生連の中でも、お金にならないのでやめてしまえという声も聞かれる。単年度の収支は苦しいが、地域づくりに貢献していくとの、改めて初心に立ち戻ってやっていくことが大事だと思っている。高度医療センターであればこそ、地域の方々の理解がより一層必要だと思っている。
(Q10)一昨日の臼田での説明会では、反対の方々がいた。高度医療センターには3年はかかる。その後に地域医療センターに3~4年、すなわち7年はかかる。これからの臼田の町づくりをぜひ一緒にやらせてもらいたいとお願いした。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 【参考情報】 「厚生労働省の健康科学総合研究事業」の中の「地域健康危機管理研究事業」 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkyuujigyou/hojokin-gaiyo06/02-04-06.html の分担研究者として参画したときの報告書、「地域における新たな普及啓発方法の開発に関する研究」 http://www.msakunet.info/kousei.html より、以下に抜粋引用。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- |
北八ヶ岳苔の会 佐久穂げんでるネット メディカル佐久情報ネット 世界の最先端イノベーション活動
お互いの自己深化の場 エクスペリエンスのデザインとビジネス 農業情報ネット 文化と社会の発達に関する財団
operated by ©M-SAKU Networks 2011
〒384-0613 長野県南佐久郡佐久穂町大字高野町1500-42 M-SAKUネットワークス