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Ⅶ.今後の課題と展望(15P)
Ⅶ-1 地域ぐるみの健康管理活動についてのこれからの課題(仮題) 杉山章子
Ⅶ-2 今後の課題と展望に対する「提言集」 1,200~2,000字 【⇒原稿作成用作業ページ】
Ⅶ-2 今後の課題と展望に対する「提言集」 遠藤隆也(M-SAKUネットワークス) 「活動」と「内面」の再構築を 1.はじめに: 八千穂の皆さんと佐久総合病院のたまもの: この地では、畑や小海線の電車の中でも、どこに行っても、何気ない会話の中に、佐久総合病院のことを耳にします。そして、病院際では、その諸活動の幅広さ・深さに驚かされます。佐久総合病院の「総合」の意味は、当然としての「総合病院」であると共に、八千穂・南佐久地域の人々の諸活動、加えて心の中の「底流を流れる総合」であるような感じを受けます。皆さんが創られた環境、皆さんのソーシャルネットワークスの中で生活できる喜びを感じています。 2.『村ぐるみ健康管理二十五年』における提言と現状: 『村ぐるみ健康管理二十五年』において、松川町教育委員会主事の松下拡さんが、「課題とその解決への方途」の中で、「病院と行政と住民との関係は、本来どのようにあるべきであるか。」について提言をされています。これらについては、「健康管理合同会議」、「健診結果に対する結果報告会」、「福祉と健康のつどい、住民による演劇活動」「佐久地域保健福祉大学」などなど、この地では、相当のところまで、実現されているように感じています。 3.八千穂・佐久総合病院の諸活動からの学びと提言集: 2005年の市町村合併、2008年からの特定健康診査・特定保健指導(メタボ健診)などによって、地域活動や健康管理活動をとりまく環境・状況は、大きく変わってきているように感じます。自分たちの地域を良くしていきたいと思うとき、今、何が必要なのか? 私たちにできることは何なのか? どうもそのキーは、八千穂・佐久総合病院のこれまでの活動全体の中にあるように思われてなりません。活動全体から私たちが学び、受けついで、願わくば未来に、願わくば他の地域での活動にも役立つためには何をどのように進めていけばいいのか。あるローカルな場所、時代から発信された活動実践の知識を、他のローカルな場所、時代に伝播(インターローカリティ化)できるようにし、今後の活動実践の参考になるように、主体、対象・結果、道具(ツール)、集合体、分業、ルール・規範の構造からなる活動理論に基づく表記法を使って表現すると共に、今の思いをイメージ的に「図 健康管理運動の展開と展望: 八千穂村からの学びと新たな拡張的・発達サイクルに向けて」に描いてみました。 以下に、新たな拡張的・発達サイクルに向けての、いくつかの提言を、八千穂村・南佐久のネットワーク活動という言葉(MSAKU NET の英文字)になぞらえて記述してみます。 M(Multidisciplinary、Mutual、Methodology): これまでの諸活動を持続・深化させ、普遍的問題である健康問題を包み込みながら今後の地域づくりに展開していくためには、医療、疫学、保健予防、健康管理などの専門領域から、人間学、社会学、情報学、ネットワーク・情報通信技術など、多くの学問領域にわたる、すなわち、マルチディシプリナリー(Multidisciplinary)な取組みを、利害関係者を巻き込みながら話し合い、相互にインタラクション(Mutual interaction)しながら進めていく方法論(Methodology)を開発しながら進めていくことも必要だと思われます。 S(Sociocultural、Sustainable、Strategic): これまで社会・文化的(歴史的)(Sociocultural)に創発・共創・構築・醸成されてきたソーシャル・キャピタル(Social capital)を大事にし持続させていく(Sustainable)方法論を明らかにし、その基本となる持続させようとしてきた心・本能のメカニズムについての八千穂村の方々からの経時的学びを明らかにし、その学びを今後の活動サイクルに戦略的(Strategic)に活かしマネジメントしていくことも大切だと思われます。 A(Archives、Accessibility、Activities): 農村医療の映像記録保存会がこれまでの映像記録のディジタル化を進められています。本「五十年史」の記録とあわせたアーカイブ(Archives)化活動を広く多くの方々が容易にアクセスできるように情報へのアクセシビリティ(Accessibility)を高めて、単にアーカイブにとどめることなく広く普及させ、これからの諸活動(Activities)に活かして頂くための方策を企画・実践していくことも大切だと思います。 K(Knowledge) 「農民と共に」新たな「農村医学」の知識(knowledge)を生み出したこの地において、八千穂村の活動以来持続している健康管理データ・現場参加観察から、現在の新たな地域・農業の問題を提起し、それを解決していく地域・農村健康医学、家族(遺伝)医学、母乳育児医学・心療医学、老年医学、性差医学、個の医学などの実践知を創出していくことが期待されます。そして、それらの知識を住民の皆さんと共創・共有化していき、佐久病院は「やっぱり我々と共にあった」、よりそい続けていたと感じられるようにしていくことが望まれます。 U(Ubiquitous、Universal) この地でのこれまでの経験を、海外の国々でも、いつでも、どこでも利用できるユビキタス(Ubiquitous)な存在にしていくことも期待されます。そのためには、文化・言語・国籍の違い、老若男女といった差異、障害・能力の如何を問わずに、これまでの経験を追体験・利用できるような情報環境や普及活動として、ユニバーサルデザイン(Universal design)していく必要があると思われます。 N(Narrative、Networks) 1959年に始まった全村健康管理運動に参画された方々は、自分たちが力をつくすことでよくしていきたいとの思いが強かったと伺っています。その思いは、「農民と共に」演劇を共創し、みんなの心の伝えていく方法として形式化された知識ではなく、お互いにその経験について語り(Narrative)、分かち合い、参画する喜びや自己の深化を感じ味わうといったことが重要であったと思われます。医療としてのナラティブ・ベイスト・メディスン (NBM:Narrative-based Medicine 物語に基づいた医療)のように、活動自体を理解・共感を呼ぶためには、物語に基づく活動(Narrative-based Activity)が大切であると思われます。 そして今、地域の総合的な健康管理活動を考えた場合には、望まれる未来の歴史の断片としての物語(Narrative)を、地域の他の病院、診療所、母乳育児団体などと共有・共感していくような複合的ネットワーク化(Networks)を進めていくことが大切だと思われます。 E(Education、Entertainment) 農村医学夏季大学講座、佐久地域保健福祉大学などでのような学びと教育(Education)の場が、ますます必要になってくると思われます。佐久地域保健福祉大学の卒業生は、「種を蒔く人になろう」との活動をされています。これらの活動には若い世代の参加を増やしていくことが大切になってきています。これまでの演劇による方法に加えて、みんなが参加し共に創り楽しめる(Entertainment)方法を考えていく必要があるようにも思います。 T(Technologies、Tools) 現在、世界の医療界では、従来とは異なる形の情報化が進んでいます。医療業務の効率化に加えて「医療情報の共有化や消費者主導化」が進んでいます。このような情報化を実現する仕組みをEHR(electronic health record)、またはPHR(personal health record)と呼ばれています。最近では、ネット企業が「健康情報の個人向け管理サービス」に相次いで参入して話題になり、これらサービスの利用者は、自分の健康に関する情報を一元管理できます。 医療に関する技術(Technologies)は当然のことであるが、活動が新たな拡張サイクルに入っていくためには、ライフログ技術、データマイニング技術、コミュニティ支援技術などの情報通信技術(ICT)を用いた各種の最新のツール類(Tools)を利活用していくことが必須になると思います。若い世代を活動に参画させていくためにも必要だと思います。 4.むすび: この50年史の編纂の年に、東日本大震災が起こり、改めて地域コミュニティを持続させていくことの大切さが再認識されてきています。「差異」とは「持続」であると言われています。「八千穂村全村健康管理活動」は、この「持続」という観点からも、コミュニティ活動として驚異的なものであると感心します。平成21年の「福祉と健康のつどい」での劇の題名は「絆(きずな)」でした。観客の私も思わず引き込まれ涙し、そして意識がまた少し深まった体験を、地域のたくさんの方々と共有し感動しました。 一方で、最近、近所の方から、「病院は、各科がショッピングプラザのテナントになってきているように感じるときがある。『総合』病院というからには、テナントにならないでひとつの家(家族)のようになって欲しい」「最近、検診率がおちてきているのではないか?」などとの声を聞きました。今、「形態としての再構築」に加えて、「活動(方法)の再構築」、そして「内面(深化)の再構築」が期待されていると思われます。それは、私ども、住民に投げかけられた問いでもあります。 佐久穂町の羽黒下駅に降りると、「水と緑のうるおい、人の営みが奏でる未来のふるさと」という石碑があります。これから、「形態としての再構築」が進み、ツール・道具・活動などは新たになったとしても、「人間的・社会的」には、人々と共に歩む「地べたに根ざした、何か少し泥臭い、なつかしい未来」、そんな地になって欲しいと思います。 |